No. 05
ワーキングメモリに影響する要因 — 睡眠、不安、騒音、年齢
同じ人でも、ある日は7桁、別の日は5桁しか覚えられないことがあります。研究で確かめられたワーキングメモリを下げる要因と、測定条件をまとめました。
数字スパンは固定された能力値ではありません。同じ人でも、よく眠れなかった日、緊張している日、騒がしい場所では1〜2桁短くなります。以下は、研究で繰り返し確かめられている要因です。
睡眠不足
Lim と Dinges(2010)は、短期間の断眠が認知機能に与える影響を扱った研究をメタ分析しました。最も大きく低下したのは単純な注意と覚醒の維持で、ワーキングメモリを含む複雑な課題でもはっきりした低下が見られました。徹夜した翌日に数字スパンを測れば、普段の記録より低く出るのは自然なことです。
不安とストレス
注意制御理論(Eysenck ほか, 2007)は、不安が心配ごとのほうへ注意を奪い、ワーキングメモリの中央実行系の働きを非効率にすると説明しています。Moran(2016)のメタ分析でも、不安が高いほどワーキングメモリ課題の成績が低い傾向が確認されました。点数を意識して緊張すると、それ自体が点数を下げることがあります。
周囲の音、特に話し声
無視しようとしても聞こえてくる話し声は、数字や文字を順番どおりに覚える課題を妨げます。Salamé と Baddeley(1982)は、参加者が聞かないようにしていても、背景の話し声が系列の記憶を低下させることを示しました(無関連音声効果)。話し声が音韻ループに自動的に入り込むためだと解釈されています。静かな場所で、聞き取りモードはイヤホンで測るのがおすすめです。
年齢
子どものうちは、年齢とともに数字スパンが着実に伸びていきます。Gathercole ほか(2004)は、4〜15歳の子どもで、ワーキングメモリの構造はほぼ同じまま、各要素の成績が年齢とともに向上すると報告しました。成人期の後半には、処理速度やワーキングメモリ課題の成績が下がる傾向が多くの研究で報告されています。このサイトは年齢別の基準を提供していないため、ほかの年代と点数を比べないでください。
言語と数字の名前の長さ
数字を心の中で繰り返す速さは、その言語の数字の名前がどれだけ短いかで変わります。発音の短い言語で測るほど、数字スパンが長く出る傾向があります。詳しくは言語と数字スパンのガイドにまとめました。
測定の条件
| 条件 | 結果への影響 |
|---|---|
| --- | --- |
| 提示の速さ | 速すぎると復唱する前に消え、遅すぎると前半の数字がぼやけます。1秒/桁が標準に近い速さです。 |
| 提示方法 | 一括表示では目でまとめやすく点数が上がりやすく、1桁ずつでは順序の負担が大きくなります。 |
| 画面と音 | 小さな画面、暗い明るさ、小さなスピーカー、聞き取りにくい合成音声は、認識そのものを難しくします。 |
| 練習効果 | 何回も続けると課題に慣れて点数が上がり、長くやりすぎると疲れで下がります。 |
記録を比べるとき
- 同じ設定(方向・感覚・提示方法・時間)で測りましょう。
- 一日のうちの同じような時間帯、同じような環境で測ると、ばらつきが減ります。
- 1回の低い点数より、数週間にわたる推移を見ましょう。普段より記憶が大きく、しかも続けて悪くなったと感じるなら、このサイトではなく専門家に相談してください。
出典:Lim & Dinges (2010) Psychological Bulletin 136(3):375–389 · Eysenck, Derakshan, Santos & Calvo (2007) Emotion 7(2):336–353 · Moran (2016) Psychological Bulletin 142(8):831–864 · Salamé & Baddeley (1982) Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior 21(2):150–164 · Gathercole, Pickering, Ambridge & Wearing (2004) Developmental Psychology 40(2):177–190