No. 03
チャンキングと記憶術 — 数字をまとまりにする方法
7桁を超える数字を覚えられる人は何が違うのでしょうか。チャンキングの原理、数字スパンを79桁まで伸ばした実験、実際に使える記憶術をまとめました。
チャンキング(chunking)とは、ばらばらの項目を意味のあるまとまりにまとめ直し、覚える単位を減らすことです。3 7 7 6 という4つの数字をばらばらに覚えるのは手間ですが、「富士山の標高3776メートル」と見れば一つのまとまりになります。Miller(1956)が、記憶の範囲は情報の量ではなくチャンクの数で制限されると述べたのは、まさにこの現象です。
79桁を覚えた学生
Ericsson、Chase、Faloon(1980)は、ごく普通の大学生一人(論文では SF)に、1秒に1桁ずつ読み上げる数字スパン課題を約20か月、230時間以上練習させました。最初は7桁ほどだった彼の数字スパンは、79桁まで伸びました。
秘訣は記憶容量が大きくなったことではなく、方略でした。長距離ランナーだった SF は、3〜4桁の数字をランニングのタイム(例:3492 →「3分49秒2、1マイルの世界記録に近いタイム」)に置き換えてまとめ、さらにそのまとまりを上位の構造に組み立てました。研究チームは、短期記憶の容量そのものが大きくなった証拠はなく、数字をすでに知っている知識(長期記憶)に結びつけてまとめたことが鍵だったと解釈しました。
そして、この能力はほかに広がりませんでした。同じ時期に子音字で測った彼の記憶範囲は、約6個のまま変わりませんでした。練習で伸びたのは「数字をランニングのタイムとしてまとめる技術」であって、記憶力全体ではなかったのです。
日常で使えるまとめ方
- 意味を持たせる:年号、誕生日、バスの系統番号、点数など、すでに知っている数字に置き換えます。0120、1192、3776 のように何かが思い浮かぶ数字は、一つのまとまりになります。
- リズムでまとめる:3-3-4、3-4-4のように一定の拍子で区切って復唱すると、真ん中の桁の順番が混ざりにくくなります。電話番号がこう書かれる理由の一つでもあります。
- パターンを見つける:上り下り(2-5-8)、偶数・奇数、対称(3-7-3)に気づけば、何桁かを一つの規則で覚えられます。このサイトの数字の列は、1ずつ上下する3連続(1-2-3)をわざと避けているので、簡単すぎるパターンは出てきません。
- 数字を音に置き換える:数字ごとに子音を決めて単語にするメジャー・システムや、場所に沿って配置する場所法(method of loci)は、記憶力競技で使われる高度な技法です。日本語でおなじみの語呂合わせ(「いい国(1192)」など)も同じ仲間です。身につけるには時間がかかります。
このテストでチャンキングを使ってもいいか
使ってかまいません。ほとんどの人は意識しなくても2〜3桁ずつまとめています。ただし、点数の意味が変わることだけは覚えておいてください。まとめる方略を積極的に使った点数は「保持容量 + 方略」であり、自分の記録を比べるなら、毎回同じようなやり方で解いたほうが推移に意味が出ます。
練習の進め方の例
- 1桁ずつ提示・1秒で順唱を何回か行い、普段のスパンを確認します。
- 次からは、3桁ずつリズムをつけて復唱してみます。一括表示では、目でまとまりを区切りやすくなります。
- スパンが1〜2桁伸びたら、同じ方略を逆唱にも使ってみます。まとまり単位で反転する練習になります。
- 伸びたのは「数字課題の技術」だということを覚えておきましょう。ほかの記憶課題に広がるかどうかは、記憶トレーニングのガイドを参考にしてください。
出典:Miller (1956) Psychological Review 63(2):81–97 · Ericsson, Chase & Faloon (1980) Science 208(4448):1181–1182 · Chase & Ericsson (1982) Psychology of Learning and Motivation 16:1–58